日別アーカイブ: 2015/12/24

【映画レビュー】『サウルの息子』(2015)

先日、2016年1月23日公開予定の『サウルの息子(SON OF SAUL)』の試写会に招待して頂きました。
本作品が長編デビュー作のネメシュ・ラースロー監督。無名の新人監督にも関わらず、第68回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した衝撃作!107分という比較的に短めの映画ではありますが、全身に衝撃が走る重たい映画でした。

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『登場人物一人一人の押し殺された感情が、映し出されている内容を全て事実だとして受け入れざる負えない重い空気感を作り出している。』

同じユダヤ人を葬るために囚人でありながら、殺されずに働かされている特殊部隊「ゾンダーコマンド(ドイツ語: Sonderkommando)」に焦点を当てた本作品。主人公「サウル」は、自分が担当してガス室に閉じ込めた同胞の中に、自らの息子を発見する。死体となってしまった息子を、せめてユダヤ教の教義通りに埋葬しよう(*)と、周囲と衝突しながら奮闘する。そんな中、仲間たちの間では密かに脱走計画が進行していた……。

特筆するべきは、その撮影手法である。基本的に主人公サウルを常に画面に映し出し続ける撮影手法が使われている。更に、被写界深度が極めて浅いので、彼の背景で起きている出来事の多くがぼやけている。しかし、それによってホロコーストの残虐性を表現しつつ、残虐的なシーンにばかり目が行くことを防いでる。
また、主人公の行動シーン以外がないため、収容所の全体像を把握するのは困難である。人々をガス室に案内するシーン、死体を運び出すシーン、燃えて灰となった死体を川に流すシーンと断片的に死体処理の工程が映し出される。観客も少しずつ情報を得ながら、自分で想像して欠けているシーンを埋めていく必要がある。これは、この時代の混乱の世界感に観客を取り入れるのに素晴らしい効果があった。

ホロコーストをテーマにした映画は数多くあるが、これまでとは全く違った切り口で作られた作品ではないだろうか。

(*ユダヤ教では火葬は禁止されている)

監督:ネメシュ・ラースロー
出演:ルーリグ・ゲーザ、モルナール・レヴェンテ、ユルス・レチン
2015年/ハンガリー/カラー/107分/スタンダード
配給:ファインフィルムズ